フォトグラファー現場主義道具学

写真を撮ることを生業にしてきた私を助けてくれた道具たちと写真の話。

なぜプロの写真はアマチュアに撮れないか。

よくあるご質問

「素人の私でも、プロ並みの写真を撮るにはどうすればよいですか?」

 

昨今、若い女性の編集者からよく聞かれる質問です。

なぜ、若い女性の編集者かといえば、つい最近までプロに依頼していた「写真を撮る」という仕事を、突然自分たちがやらざるを得なくなったからです。

雑誌も書籍も、昔ほど売れない時代になりました。

製作費が大幅に削られた編集部は、少ない予算で利益を出さねばならず、真っ先に「撮影費」が削られます。

そのシワ寄せが、撮影の素人である彼女たちにやってくるわけです。

当然、私の懐にもやってきます。

 

現在私がメインで使用している「EOS 5D MarkⅣ」。

決して安い買い物ではありません。

しかも重い。

レンズを外した状態でバッテリーグリップ含めると約1.3キロありますから、女性は持っているだけで腕が震えてくるかもしれません。

けれどそのぶん、機能はハイスペック。

このクラスのカメラを使えば、そこそこプロ並みの写真が撮れます。

というのは大きな勘違いで、事はそう単純でもありません。

いまは低価格のコンパクトカメラでも、プロが使用するカメラと同等の機能を持つものが増えました。

あらかじめ、プロの撮影技術もカメラにプログラミングされています。

マチュアの撮影環境は、限りなくプロに近づいているのです。

​「本当に良い写真」が機材や技術によってもたらされるものならば、アマチュアでもすでに「良い写真」が量産できるようになっていなければおかしいでしょう。

 

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答えは写真集のなかに

素人写真家が「本当に良い写真」を撮るにはどうすればよいか。

数年前、その問いに答えてくれる写真集が出版されました。

『マグナム・コンタクトシート 写真家の眼――フィルムに残された生の痕跡』(青幻舎)。

 

マグナムとは、世界を代表する国際的な写真家グループ「マグナム・フォト(MagnumPhotos)」のことです。「世界最高の写真家集団」として、現代でもその名声はつとに知られています。1947年にロバート・キャパ、アンリ・カルティエブレッソンジョージ・ロジャー、デヴィッド・シーモアの4人の写真家たちによって結成されました(wikipediaより)。

 

コンタクトシートとは、撮影されたネガフィルムを1本丸ごと印画紙の上に焼きつけたもので、最終的にどのカットをプリントするか選ぶために使用されます。

つまり、マグナムという「世界最高の写真家集団」に属する写真家たちのコンタクトシートが、そのまま写真集として売り出されたわけです。

コンタクトシートですから、世界的に有名な写真のネガだけでなくその前後に撮られたほかの写真のネガも見ることができます。

この写真集、はじめて見たとき「よせばいいのに」と思いました。

なにしろ、世界的に有名な写真の前後に撮られている写真は、その多くがお世辞にも素晴らしいとは言えないミスショットの連続だからです。

むろん「ミスショット」とは言葉の綾で、前後の写真一枚一枚をたどっていけば、なぜその「ミス」が撮られなければならなかったか、じつによく理解できます。

それが、この写真集の面白いところです。

ただ、どうでしょう。

すでに故人となられている写真家のシートが多いですが、関係者はよくこのような「恥部」の公開を許したものです。

私なら全力で流出を阻止するでしょう。

 

傑作を生み出す欲望

話がちょっと逸れました。

要するに「世界最高の写真家集団」でさえ、こうなのです。

本当に良い写真を撮りたければ、ミスショットの連発をものともせず、ひたすらシャッターを切り続けるほかありません。

それが答えです。

だから、くだんの女性編集者たちは、私の何十倍も失敗を重ねることを覚悟のうえで撮影の仕事に臨むしかありません。

けれど、「最高の1枚が撮れるまで粘りに粘りました」と誇らしげに報告してくれる人はまずいないでしょう(そこまで粘る時間がない。編集者は忙しいのです)。

そこに、プロとアマを隔てる大きな壁が立ちはだかっています。

両者を隔てるのは、「良い写真が撮れるまで絶対にあきらめない」という強い欲求、執着心の強さです。

これが全然違います。

ここに大きな差があり過ぎます。

機材の性能や写真家の技量を超えて、最後はより欲の強かった者が勝つ。

それが写真です。

良い写真というのは、ほとんどすべて「努力賞」なのです。

「良質なクリームは大量のミルクがないと作れない」

(アンリ・カルティエブレッソン

写真に関わる道具の話をする予定でしたが、いきなり脱線してしまいました。次回から本線に戻します。

かれこれ四半世紀、写真を撮ることで糊口を凌いできた私が、長年使い倒してきた道具たち、最高の1枚にたどり着くまでの道のりをサポートしてくれた機材たちを、一つずつ紹介していきたいと思います。

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セビリア(スペイン)にて。フラメンコは動きが速いので構図とタイミングを合わせるのが非常に難しい。このときは約450枚撮影しました

 

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子供の撮影はすべてにおいて「距離感」が大事。こちらから話しかけつつ相手の話も聞いてあげて心地よい間合いをつくります。カメラはずっと向けておく。子供が無防備になったときがチャンスです

 

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サンルーカル(スペイン)にて。シェリー酒づくりの職人が樽からグラスに酒を注ぐ瞬間。背景、光、構図の良し悪しが瞬時に判断できるようになるには、やはり何度もシャッターを切って「失敗」を積み重ねるしかありません